もし一人暮らしの飼い主が交通事故にあったら?残されたトイプーの4日間

一人暮らしの飼い主さんが突然の事故で意識を失ったら、家に残されたペットはどうなるのか。時系列で追いました。
19:00 横断歩道、衝突
いつもの帰り道
金曜日の夜、19時。
仕事を終えて、駅から自宅に向かう途中のことでした。
30歳、都内で一人暮らし。家にはトイプードルのハナが待っています。今日も早く帰ってごはんをあげたい。そう思いながら横断歩道を渡りかけた瞬間、右折してきた車が彼女に気づかなかった。
衝突、意識不明
衝突。
体が宙に浮いて、アスファルトに叩きつけられました。後頭部を強く打ち、意識がなくなりました。
周囲の人が119番通報。数分後に救急車が到着して、彼女はそのまま救急搬送されました。
割れたスマホ、伝えられない存在
スマホは画面が割れて、道路に転がったまま。ロック画面には、ハナの写真が表示されています。
ハナのことを伝えられる人は、誰もいません。
19:30 いつもの時間が過ぎていく
「カチャ」の音を待つ
ハナはいつも、19時半ごろに玄関のドアが開く音を知っています。
鍵が回る「カチャ」という音。ドアが開いて、「ただいま〜ハナ〜」という声。そのあとは抱っこされて、ごはんをもらって、一緒にソファでくつろぐ。毎日続いてきた暮らしです。
19時半。
ハナは玄関の前に行って、ちょこんと座りました。
しっぽを小さく振りながら、ドアのほうを見つめています。耳がピンと立っています。廊下から足音が聞こえるたびに、しっぽの振りが大きくなります。でも、その足音は毎回ドアの前を通り過ぎていきます。
20時、21時…
20時。まだ開きません。
ハナは小さく首をかしげました。いつもと違う。いつもならもうとっくに帰ってきて、「ハナ〜おなかすいたね〜」と言いながらごはんを用意してくれているはずです。
21時。まだです。
ハナは不安になって、小さく「クゥン」と鳴きました。
この部屋でたったひとりの人間
お腹が空いています。でもそれ以上に、飼い主さんがいないことが不安です。ハナにとって飼い主さんは、世界のすべてです。この部屋で関わる人間は飼い主さんだけ。その人が帰ってこない。
でも、待てばきっと帰ってくる。今までだってそうだった。
ハナはそう信じて、玄関の前から動きません。
深夜 帰ってこない
ドアを引っ掻く
23時。
ハナはまだ玄関の前にいます。
何度も小さく鳴いて、ドアを前足で引っ掻きました。カリカリ、カリカリ。爪が当たる音がマンションの廊下に小さく響きます。でも、誰も来ません。
ハナは「ここにいるよ」と伝えたくて引っ掻いています。自分がここで待っていることを、飼い主さんに気づいてほしい。でもドアの向こうには、誰もいません。
安心できる場所がない
深夜0時を過ぎました。
部屋の中は暗くなっています。いつもなら飼い主さんと一緒にベッドにいる時間です。布団の中で飼い主さんの腕に頭を乗せて、安心して眠る時間です。
ハナは玄関とリビングを何度も行き来しています。落ち着けません。水を飲みに行って、また玄関に戻る。ベッドに行ってみる。飼い主さんはいない。また玄関に戻る。
どこにいればいいのかわからない。飼い主さんがいないと、この部屋のどこにも「安心できる場所」がありません。
スリッパの匂い
深夜2時。
疲れて、玄関のドアの前にうずくまりました。飼い主さんのスリッパに顔を押しつけて、目を閉じます。
匂いだけが、かすかな安心です。この匂いがあるから、きっと帰ってくる。ハナはそう思って、目を閉じました。
2日目 水が尽きる
誰もいない朝
朝が来ました。
カーテンの隙間から光が入ってきます。でも、誰も起きてきません。
いつもなら飼い主さんが「おはよう」と言って、ハナを撫でて、ごはんを用意してくれる時間です。
ハナは水を飲みに行きました。水の器を見ると、残りが少なくなっています。
空腹、20時間
お腹がぐるぐる鳴っています。もう20時間近く何も食べていません。
台所のあたりをうろうろして、床に落ちていないか探します。何もありません。ごはんの袋がある棚の前に座って、見上げて鳴きました。
誰も開けてくれません。
ハナにはわかりません。なぜ飼い主さんが帰ってこないのか。自分が何か悪いことをしたのか。どうすれば帰ってきてくれるのか。何もわからない。ただ「いない」という事実だけがあります。
崩れていく暮らし
トイレシートはもう汚れています。ハナはきれい好きな子なので、汚れたシートを使いたくない。でもお腹の調子が悪くなってきて、我慢できません。シートから外れた場所にしてしまいました。
普段なら絶対にしないことです。飼い主さんに叱られるかもしれない。でも飼い主さんがいないから、叱る人もいません。
リビングにはかすかな臭いが広がりはじめています。
かすれた声
お昼を過ぎても、夕方になっても、誰も帰ってきません。
ハナはもう吠える力が出なくなってきました。声がかすれてきています。昨日は何度も鳴いたけど、誰も来てくれなかった。それでも鳴くのは、声を出すことでしか不安を発散できないからです。
最後の水
夕方。水の器に残っていた最後の水を飲み干しました。
これで、水がなくなりました。
水を探して、バスルームに行きます。排水口のまわりに少しだけ水が残っていて、必死で舐めます。でも、それもすぐになくなりました。
枕の匂い
2回目の夜。飼い主さんのベッドに上がって、枕に顔をうずめました。ここが一番匂いが残っている場所です。
3日目 身体が壊れはじめる
脱水のサイン
3日目の朝。
ハナの口の中が乾いてきました。舌で唇を舐めても、唾液がねばねばしています。歯ぐきが乾いてザラザラしています。脱水が進んでいるサインです。
丸2日、何も食べていません。トイプードルのような小さな体は、エネルギーの蓄えが多くありません。体が震えはじめています。低血糖の症状です。
足元がふらつくようになりました。まっすぐ歩けません。
戻らない皮膚、浮き出るあばら骨
目が少しくぼんできました。皮膚をそっとつまんでみると、健康な犬ならすぐに元に戻ります。でもハナの皮膚はつまんだまま、しばらく戻りません。体の中の水分が足りていない証拠です。
おしっこの色が濃くなっています。量もほんの少ししか出ません。腎臓に負担がかかりはじめています。
ごはんを食べていないので、体は自分の筋肉を分解してエネルギーに変えはじめています。あばら骨の形がうっすら浮き出てきました。
トイレは限界を超えていて、部屋のあちこちに汚れが広がっています。ハナ自身も、自分の体に汚れがついてしまっています。
もう動けない
もう玄関に行く元気がありません。
1日目は「待っていれば帰ってくる」と信じていました。2日目は「どうすれば帰ってきてくれるんだろう」と不安で動き回っていました。3日目のハナは、もう動き回る体力がありません。
リビングの隅で横たわったまま、ときどき、かすかに「クゥ…」と鳴きます。
でもその声はもう、ドアの向こうには届きません。
「明日」がわからない
犬は「明日」がわかりません。「あと何日待てば帰ってくる」という見通しも持てません。ただ「いま、いない」という不安が、ずっと続いているだけです。それでもときどき目を開けて玄関のほうを見るのは、ドアが開くことだけが唯一の希望だからです。
もし飼い主さんが帰ってきたら、ハナはきっと全力で走っていくでしょう。しっぽをちぎれるくらい振って、飛びついて、顔中を舐めるでしょう。でも、鍵の音はしません。
4日目 最後
立ち上がれない
4日目の朝。
ハナはもう自分の力で立ち上がることができません。
横たわったまま、浅く速い呼吸を繰り返しています。心臓が速く動いています。水分が足りなくて、血液がドロドロになっていて、心臓が必死に血を送ろうとしているからです。
歯ぐきの色がいつものピンクではなく、白っぽくなっています。
内臓の限界
体温が下がってきました。小さな体は、もう自分で体温を保つことが難しくなっています。
腎臓がほとんど機能しなくなっています。体の中に毒素が溜まっていて、内臓がひとつずつ限界を迎えています。
筋肉がときどきピクピクと痙攣します。
最後に残った安心
飼い主さんの匂いがするスリッパのそばで、横たわっています。もう匂いをかぐ力もほとんどありません。それでも、そこにいます。ハナにとって飼い主さんの匂いは「世界で一番安心する場所」の印です。体が壊れていく中で、最後に残った安心がこの匂いでした。
呼吸が止まる
呼吸の間隔が不規則になっていきます。深く吸って、しばらく止まって、また浅く吸う。その間隔がどんどん長くなっていきます。
目がうつろになっています。
そして、ハナは動かなくなりました。
目は薄く開いたまま。最後まで、玄関のほうを見ていました。
ハナは怒っていなかったと思います。「なんで帰ってこないの」と責めてもいなかったと思います。犬はそういう生き物です。ただ信じて、ただ待っていた。最後の一瞬まで。
最後の最後まで、飼い主さんが帰ってくるのを待っていました。
発見
この子が発見されたのは、さらに数日後のことでした。
隣の部屋の住人が異臭に気づいて、管理会社に連絡。管理会社が警察に通報して、部屋のドアが開けられました。
もし「備え」があったら
じゃあ、どうすればよかったの?
ここまで読んで、こう思った方も多いと思います。
「じゃあ、どうすればよかったの?」
一人暮らしで、近くに頼れる家族もいない。事故は自分の意思で避けられるものじゃない。意識を失ったら、自分でスマホを操作することもできない。
でも、たったひとつだけ。事前にできる「備え」があります。
ここからは、同じ事故でもうひとつの結末をお伝えします。
同じ事故、ひとつだけ違うこと
同じ金曜日。同じ19時。同じ横断歩道。同じ事故。彼女は同じように意識を失って、救急搬送されました。
でも、たったひとつだけ違うことがあります。
彼女の財布の中に、1枚のカードが入っていました。そこにはこう書いてあります。
私にはペットがいます。このまま帰れないとき、この番号に電話してください
救急隊員が気づいたカード
救急隊員が財布の中身を確認したとき、このカードに気づきました。書かれている番号に電話をかけます。
あずかるんペットの第三者通報ダイヤル。
飼い主さん本人が意識を失っていても、救急隊員や警察、看護師さんなど第三者からの通報を受け付けています。
電話を受けた本部は、すぐにシッターに連絡。事前に登録されていた鍵の情報をもとに、シッターが彼女の部屋に向かいます。
しっぽを振って駆け寄ってきた
シッターがドアを開けたとき、ハナは玄関で待っていました。しっぽを振って、駆け寄ってきました。
「帰ってきてくれた」と思ったのかもしれません。
ハナはその日のうちに、シッターのもとで温かいごはんを食べて、安全な場所で眠りにつきました。
目が覚めて最初に気にしたこと
飼い主さんが意識を取り戻したのは2日後。目が覚めて最初に気にしたのは、ハナのことでした。スタッフから「ハナちゃんは元気に過ごしていますよ」と聞いて、ようやく安心して治療に専念できたそうです。
まとめ
一人暮らしの飼い主さんが意識を失ったら、家に残されたペットを助けられる人は誰もいません。
事故はいつ起きるかわかりません。いつもの帰り道、いつもの横断歩道で突然起きます。
大事なのは、そのとき「誰かにつながる仕組み」を持っておくことです。
あずかるんペットは、飼い主さんが自分でSOSを出せない状態でも、第三者からの電話1本でペットの保護を始められます。
財布の中の1枚のカードが、あの子の命を守ります。